◆◇◆ 食味向上客土の取組と基盤整備 ◆◇◆
■ 要旨
- 北海道の水田地帯には、特殊土壌である泥炭地が広く分布しています。近年の売れる米づくりを進める上で、特に食味を判断する指標としてタンパク含有量が影響するとされていますが、泥炭地帯では作土直下の泥炭層の影響により、米粒中のタンパク値が高くなることから従来より食味の向上が課題でした。
- このため農家は施肥や排水等の対策を行って来ましたが、営農努力によるところでは限界があり、なかなかタンパク値が下がらず苦慮しているのが実情でした。
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北海道の主な水田地帯の泥炭分布 |
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名称 |
水田面積に占める泥炭土の割合 |
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石狩 |
52.0% |
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空知 |
24.7% |
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上川 |
14.4% |
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渡島 |
11.9% |
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全道 |
21.4% | (北海道地力保全基本調査総合成績表) |
- 近年、消費者や実需者のニーズに対応した売れる米づくりが求められていますが、石狩管内新篠津村では、以前から泥炭地帯において私費による砂質系客土が実施され、食味向上をはじめとし一定の効果があることが農家の間で知られ、新たな客土の要望が寄せられていました。
- 北海道では平成17年度に次世代へと引き継ぐ豊かな農村空間の創造をするため「北海道農業農村整備推進方針」を策定し、以下の3つの整備方針による重点化を図ることとしています。
1)安全安心な食の生産をささえる
2)多様な担い手と地域をささえる
3)多様な生物との共生や美しい景観をささえる
- これら整備方針を進める手法の一つとして、農地の状況や営農形態に応じた弾力的な整備を行うこととしており、農家要望や各種施策、整備方針に対応し、地域の課題である水稲の「食味向上」を視点に、新たな客土の取組を行いました。
※客土とは・・・土性改良や作土厚の薄い耕地への耕土補給などのために他の場所から目的に合った土壌を運び入れ耕地に散布する事です。
■ 新篠津村の概要
- 新篠津村は北海道石狩平野の西部、石狩管内の東端で、道都札幌市から40Km、車で50分程に位置する都市近郊の農村地域です。降水量は年間900~1,200mm、平均気温は7.0℃で農耕期は5月~9月の積算温度は2,600℃で、土壌条件は一部の沖積土地帯以外は殆どが泥炭土壌です。
- 耕地面積は水田4,840ha、畑319haで、戸当たり経営面積は約17ha(2010年センサス)となっており、水稲を中心とし小麦や豆類、野菜等を組み入れた複合経営が行われています。
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石狩振興局管内の主な水田地帯の泥炭分布 |
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市町村 |
水田面積に占める泥炭土の割合 |
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新篠津村 |
71.9% |
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当別町 |
46.2% |
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恵庭市 |
62.1% | (北海道地力保全基本調査総合成績表) |
- 農家戸数は282戸(2010年センサス)で過去5カ年に約27%減少しています。
- 水稲の生産量は平成22年産13,400tで、食味の指標であるタンパク値は村平均で約9.1と高い状況です。
- 新篠津村では、水田農業ビジョンで「水稲作付けの5割を高品質、低タンパク、加工用等多様な米生産が村の責務」としていますが、作土直下が殆ど泥炭のため米粒中のタンパク値が高くビジョン実現のための大きな課題となっています。
■ 食味向上客土の取組
(1)農家要望
- 石狩管内では古くは昭和20年代後半から国営や道営事業により客土が進められてきましたが、その殆どが粘土を客土材とする土性改良客土で、目的は収量増と地耐力向上でした。
- 近年、国の施策「米政策改革大綱」や、道の「北海道農業・農村ビジョン21」では「売れる米づくり」 「食味向上」がキーワードとなっており、新篠津村の農家からは砂質系土壌による新たな客土を望む声が多く寄せられていました。
- 農家要望で多く聞かれた砂質系客土の要望量は、平成17年度春の取りまとめで約1,000haありました。
(2)私費施工
- 新篠津村の一部自治会では、平成12年度から農家私費による砂質系客土が取り組まれており、平成17年度まで約90ha(厚さ5cm)が実施されてきました。
- 実施した農家への聴き取り調査では、タンパク値が下がり食味が向上した効果があることが確認され、また収量増や農業機械の作業効率向上についても一定の効果があることが判りました。
(3)農家要望の内容
- 農家要望を踏まえ石狩振興局では、具体的な要望の内容を確認するため緊急アンケートを実施しました。
- 調査項目は、客土の対象作物、整備の必要性、希望する客土材の土性などについて調査を行いました。
- 調査結果は、「水稲の品質向上のため、砂質系客土を実施したい」との要望が非常に多いことが判りました。

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(4)新たな食味向上の取組
これら施策の方向性や農家要望、私費施工の効果や実績を踏まえ、石狩振興局では平成17年6月に農林水産省に対して食味向上をキーワードとした新たな客土を要望しました。
■ 取組にあたって
(1)関係機関の連携
新たな「食味向上客土」の要望を検討するにあたっては、関係機関の連携が重要なことから、プロジェクトチームを編成し課題解決手法の検討や各種資料の取りまとめを行いました。

(2)論点
制度要望を行うにあたって、以下の8点について論点整理を行いました。
| 論点 |
整理した主な内容 |
| 1.国及び道の施策における位置づけ |
米政策改革大綱や北海道農業・農村ビジョン21など国や北海道が進める施策と整合 |
| 2.土地改良法等との関連 |
土地改良法及び土地改良計画設計基準に合致 |
| 3.土木的手段として妥当性 |
試験研究成果を参考に土木的改善が必要 |
| 4.地域で取り組まれた実績 |
私費で取り組まれた実績と効果 |
| 5.要否判定の指標 |
地元のクリーン農業推進センターの土壌分析データや試験研究成果を参考に、要否判定や改良目標などを設定 |
| 6.客土厚の妥当性 |
試験成績や現場条件、施工実績などから設定 |
| 7.見込まれる効果 |
作物生産効果や営農経費削減効果、品質向上効果を見込む |
| 8.モニタリング調査 |
新たな取り組みのため、客土の効果や持続性についてモニタリング調査を実施 |
※試験研究成果:今回の客土による考え方や改良目標などは、北海道立総合研究機構中央農業試験場で行れた「適正客土による泥炭地産米の食味向上」の試験報告を基に設定しています。試験研究では泥炭地においての客土の厚さや土壌の化学性によって、食味がどのうように変化するかを調査したもので、研究成果では客土材としての砂質系土壌に含まれる可給態ケイ酸により、客土量とともに食味が上がるとされています(タンパク値が下がる)
(3)環境情報協議会
事業で新たに客土を取り込むに際して、環境情報協議会において意見交換を行いました。
■ 客土要望の取り込み
- 以上の論点で農林水産省と協議を進めた結果、平成17年11月に道営経営体育成基盤整備事業で「食味向上客土」の取込を行うことが出来ました。
- 今回の取組は、客土による生産性の向上や機械作業の効率化と合わせて、可給態ケイ酸を比較的多く含む砂質系土壌によって水稲の品質向上を行うことを目的としています。
- 平成18年度からは本格的な客土工事が始まっています。

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(水田に運搬された土(平成19年4月撮影)) | |
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■ 今後の課題等
(1)推進体制の整備
今回の客土要望に関係する市町村、土地改良区、農協は複数に及んでおり、関係機関の連携や情報交換が重要なため、推進体制を整備し円滑な事業推進が必要です。
(2)土取り場の処理
土取り場については当初私費施工で実績があり、ケイ酸含有率が比較的高い土取り場を予定していましたが、今後の相当量の要望に対応するため、現在新たに土取り場の調査を行っています。調査では環境調査や土質・取れる量などの調査をはじめ、土を採った跡地の対策も検討中です。土取り場跡地処理については環境に与える影響を最小限にするため十分検討する必要があります。
(3)モニタリング調査
今回の客土の特徴として、水稲の品質向上があります。客土を行った後に土壌や収穫された米の品質がどのように変化したのか継続的に調査を行う予定です。